トイプードル しつけ

犬にしつけは必要か?

 

「しつけ」とは、飼い主さんが自ら愛犬との関係を築くこと。そして「トレーニング」とは、何をすればいいかを犬に教えること。しつけにはトレーニングが必要ですし、しつけができていてこそトレーニングが成り立つものとも言えます。この考え方をもとに、初心に戻って「犬にしつけは必要か?」と自分に問うてみました。

 

私の愛犬『アク』(トイプードル♂)は、先住犬として飼っていた『ロク』や『タロー』(いずれもトイプードル/♂)の子犬時代と比べると、数倍やんちゃでいたずら好きでした。

 

実家に連れて帰ると、実家の犬でさえ上がれないというのに、私たちが上り下りするのを見てあっという間に階段を上がれるようになりました。1階でアクの姿が見えなかったので名前を呼んでみると、慌てて2階から下りてきました。何だか嫌な予感がしたので、気になって2階に行ってみると。ベランダに出る窓の前にウンチが……。一緒に上がってきた家の毋や妹は「アクは悪いねえ」と苦笑い。

 

子育て真っ最中の妹は、アクを抱き上げて顔と顔を近づけ「こら、アク、悪い子」と話しかけましたが、アクは彼女の鼻をペロリとなめて愛嬌を見せます。

 

では、本当にアクは悪い犬なのでしょうか?私はそうは思いません。「作業意欲が高い」ということで評価してやりたいくらいです。

 

アクが2歳になったとき、K9ゲームにチャレンジすることになりました。それまでもしつけはしっかりしてきたつもりですが、トレーニングらしいトレーニングはしたことがなかったので、まず先輩トレーナーから「クリッカートレーニング」を教わることにしました。

 

その当時、私が勉強のために通っていた家庭犬訓練所では。そんな道具は一切便わない方針だったので、クリッカーはとても新鮮でした。「オイデ」。「オスワリ」、「フセ」、「マテ」などの基本的なことはすでにできていたので、クリッカーのメリットを生かして、四つ足でくるりと回るスピンや前足を上げて私の手にさわるタッチ、ハードルを飛んだりトンネルをくぐったりすることも教えました。アクは、最初は戸惑っていたようですが、どうすればよいのかがわかると、得意気にやるようになりました。それは10歳になった今でも変わりません。

 

最初は家の中、徐々に散歩の途中の広場や近くの公園などでトレーニングするようにして、刺激がある環境でも指示に従えるようにしてきたつもりでした。

 

トレーニングを続けると成果がでる

 

ところが、初めて出場した「第1回ジャパンK9ゲーム」では、会場のスピーカーから出る大きな音に驚いて固まってしまい、そのうち震え出してしまいました。これは「音響シャイ」と呼ばれるもので、大きな音が怖かったのでしょう。それが原因で、リハーサルの日にアクは私の指示にまったく従えなくなってしまったのです。

 

第2回の会場は屋外でした。アクは地面の臭いを嗅ぐのに忙しく、やはり私の指示にあまり従ってくれませんでした。これは、外でのトレーニング不足もあります。

 

第3回あたりから、フィールドでの私とのトレーニングの成果が出てきたのか、奥いを気にせずに指示を待つような様子がうかがえるようになったのです。誘導に便っていたおやつも、「大好きなチーズ」から「まあまあ好きなジャーキー」へとだんだんレベルを落とすことができるようになりました。現在では、おやつを使う必要はほとんどありません。トレーニングを続けることで成果が出ることを実感した次第です。

 

トレーニングは、ふだんの生活にも影響してきます。アクは私と目が合っただけで自分がしていた行助を中断しますし、私の様子を見て、自分が何をすればよいのかを理解しようとします。私が指示を出す気がないときも、アクはそんなふうに期待するようなりました。

 

もちろん、指示に従ってくれるのは非常にありがたいことです。呼べばすぐに来るし、してほしくないことはダメだと言えばすぐにやめます(ただし興奮してしまったときの吠えに関しては、我を忘れた状態になるので止めるのが難しくなります。アクは子犬のころからその傾向がありましたが、年を取ってからひどくなっている気がします)。

 

アクは呼ぶとうれしそうに飛んで来ますが、私とほとんどトレーニングをしたことがないわが家の『ラス』(トイプードル/♂/アクより年下)は、呼んでもすぐには来ません。しかも、あまりうれしそうではありません(笑)。

 

私‥「ラス!」
ラス‥「何?」
私‥「おいで」
ラス‥「なんで?」
私‥「おいでっ!」
ラス‥「え、怒ってるの?」
私‥「早くっ!」
ラス‥「しょうがない……(しぶしぶ)」

 

このように、何度か呼んで私の声のトーンが変わると、やっとゆっくり来るという具合。「今は行きたくない」という自己主張を素直にするのです。タローも『フー』(トイプードル/♀/ラスの毋犬)も、トレーニングらしいトレーニングはしたことがないので、同じような感じです。

 

フーに関しては、私に「ここに来てよ!」という感じで待っていることが多いように思うのですが、それは、私が迎えに行ってしまったことがあるからです。

 

タローは、聞こえないふりをします(笑)。もう13年近く付き合っているからか、呼ばれたのに行かないくらいでは、強く叱られることはないとでも思っているのでしょう。いや、思っているというよりは、統計的に学習しているのです。呼ばれて行かなかった回数のうち、何回叱られたかを計算して、行ったほうがよいかどうかを判断しているのではないでしょうか。もちろん、犬はそんな面倒くさいことを考えているわけではなく、経験から学習したということです。

 

本当はどうしたいと思っているのだろう?

 

そんなわが愛犬たちですが。私にとってはすぐに来てくれるアクもかわいいですが、来ないラスの行動も「らしさ」が出ていてかわいいと思うのです(もちろん、来なくても困らない場面に限ります)。めったにありませんが、本当に呼び戻さなければならないときは、私の指示の迫力が違うので、ラスもその空気は読んでビビリながら従います。

 

タローの知らんぷりも、フーの「迎えに来て!」というメッセージもかわいいと思っています。もしアクとトレーニングをしなかったら、彼は何と言うだろう……?「私のことを気にしないで、本当にアクがやりたいことをやっていいんだよ」と伝えることができたら、彼はどんなに楽しいことをしてくれるのだろう」とも思ってしまうのです。

 

ラスはフーの息子です。わが家で生まれたので、特別かわいくて仕方なく、ちょっと甘やかした感があるからか、アクに比べると私を気にしないでやりたいことをやっているように感じます。

 

ラスはサメのぬいぐるみでプロレスごっこをするのが好きで、私の前にサメを持ってきては「ワンー」と吠えて「遊べー」と要求します。飼い主さんには、「要求吠えはどんどんひどくなるので応えてはいけない」とアドバイスしていますが、自分のこととなると情けないものです。つい応えてしまい、それでラスと会話をしたような気持ちになっているのです。

 

言い訳をさせてもらうと、ラスは私が無視しているとすぐにあきらめますし、嫌なこと(ブラッシング、歯みがき、爪切りなど)でも素直にさせてくれます。やってほしくないことをしようとしているときは、「ダメ」と言えばやめますし。私が怒ると怖がって奥の部屋まで走って逃げます。ですから、私たちの関係は良好だと思っています。

 

このように私とわが家の犬たちとの関係を見直してみると、しつけの一部としてのトレーニングにいちばん力を入れたアクと、ほかの犬たちとの差を感じざるを得ません。許せる範囲で自由にふるまっている犬たちと、自分でやりたい行動を抑えて指示を待ってしまう犬。もちろん、アクなりに自分らしい行動をしているケースもたくさんあります。それでも「アクは本当はどうしたいと思っているのだろう?」と考えてしまうことが今でもあるのは、事実なのです。

 

噛む犬は攻撃的?

 

仕事柄、私は犬に噛まれたことが何度かあります。自分で飼っていた犬には、(私が子どものころに飼っていた犬も含めて)噛まれたことはありませんが……。

 

最初に噛まれたのは、柴犬のレッスンでのことでした。オスワリまでをすんなりこなしてくれたため、フセを指示しました。しかし、その犬と私の信頼関係は、フセをしてくれるほどはできていなかったのです。「早くよこせ!」とばかりに、おやつを持った手を
噛まれ、そのまま数回、足なども噛まれてしまいました。この柴犬の弁護をするとすれば、「知らないヤツ【私】が来て、オスワリまでは従ったけれど、お腹を床に着けるほどは信頼してない。知らない人だから多少怖くもある。そんなヤツがおやつを持ってるもんだから、早くよこせ〜!ってなっちゃった」んだと、私は思っています。

 

2回目は、とある飼い主さんのご自宅に伺ったときのこと。リビングに通されたとき、トイプードルがいきなり飛びついてきて、バッグを持っていた私の右手に噛みつきました。さわろうと手を伸ばしたりしたわけではなかったので、トイプードルにしてはずいぷんと飛び上がれたものだと感心してしまいますが、やはりじわじわと出血……。このトイプードルの場合は私の侵入が怖かったようで、それ以降は私に近づいてこようとはしませんでした。

 

このように、なわばり内に入られたことによる不快感や恐怖からくる噛みつきは非常に多いように感じます。

 

他のトイプードルの『マロン』のケースは、獣医師の間違った指導が原因で、噛みつきがひどくなってしまったようでした。診察台の上に乗せて診察しようとしたところ、うなって噛みつこうとしたので、獣医さんは飼い主さんに「絶対に犬に負けないように」とアドバイスしたそうです。しつけに関しては。残念ながら「押さえつけること」を主流とした、古いやり方を指導する獣医さんもいるようです。

 

どんなに暴れても押さえつけても、静かになるまで放さないこと。その通りにしていたら噛まれたそうです。「噛まれても放すなと言われても、痛くて手を放してしまう」と相談したら、その獣医さんから、彼らが便っている(噛まれても痛くない(はずの)特別な手袋を購入するよう勧められたため、飼い主さんはそのごつい手袋を購入。小さなトイプードルを押さえつけようとがんばったそうです。

 

しかしそれは逆効果となり、ちょっとでも嫌なことが起きると感じると、マロンは身を守るための攻撃をするようになりました。ハウスに入れられる、ブラッシングをされること自体が嫌なことなのですが、マロンが反抗すると飼い主さんは叱って押さえつけるなど、さらに嫌な。攻撃々を加えてしまったので、ケンカになってしまったと思われます。

 

ハウスはマロンにとって怖いところなので、入ると攻撃的になり、扉を閉めるのにもひと苦労とのこと。そこで私はマロンをハウスの中に入れ、おやつを与えるトレーニングをしました。「いい子だね〜」とやさしい声をかけながら、おいしいレバーソーセージを手から与えます。マロンもうれしそうに食ぺていたので何回か繰り返していると、飼い主さんが「先生、そんなことして大丈夫ですか!」と言いました。

 

その瞬間にマロンは豹変し、私の指に1回噛みついて、その後はまたハウスにこもってしまいました。飼い主さんが不安な表情を出したと同時に、変わってしまったマロン。つまり、マロンも怖いのです。犬は飼い主の心の動きに反応することができる、それほど敏感な動物だと私は思っています。

 

飼い主さんはマロンをハウスに入れたまま、ハウスをたたくなどの罰を与えたことがあるそうです。手では怖いので、ほうきなどの武器(?)も便っていたそうです。マロンが豹変した原因は、おそらくそのあたりにあるのではないでしょうか。

 

「飼い主は意味もなく自分を攻撃してくることがある」と学習してしまった可能性があります。攻撃される意味が理解できていなければ、犬はずっと緊張していなくてはなりません。それは大きなストレスになりますし、愛犬から攻撃性を引き出す原因にもなり得ると思います。実際に、それからしばらく。マロンはハウスの中でうなって出てきませんでした。

 

マロンとは、根本的に仲直りをしなくてはなりません。飼い主さんには。半年〜1年くらいのスパンで絶対に叱らない付き合いをしていただくようアドバイスしました。叱らなくて済むよう、接し方や環境を変えることもお願いしました。

 

神着にはメッセージが込められている

 

噛みつきには、血がしたたり落ちるほどのものもあれば、血がにじむ程度、跡がつくくらい、そして跡がつかないくらいのものもあり、それぞれに「嫌だ」、「怖いよ」などのメッセージが込められています。その度合いによっては、こちらが引かなかったら我慢してくれたり、なだめたら攻撃性を収めてくれることも。少々牙を当てられても、やみくもに叱るのではなく、そのときのメッセージを理解しようとすることが大事なのではないかと、最近ではそう思うようになりました。「噛みつきすべて=悪い攻撃」ではないように思えてきたのです。

 

私は以前、毎週火曜日は出張レッスンをお休みして、預かりレッスンのために犬の家に出勤していました。そこで受け持ったトイプードルの『アルフ』(♂/4歳)の話です。

 

アルフには、飼い主さんや知らない人に噛みつくという問題行動がありました。噛みつこうとする場面は、とくにトリミングテーブルの上でブラッシングなどのケアをするときです。ふだん接するぶんには、「ちょっと嫌なんだろうな」と思うようなことをしても、怒ったり、噛もうとすることはありません。ただ、ブラッシングのときだけは興奮のスイッチが入っていつものアルフではなくなり、怒って牙をむくのです。おそらく過去に、トリミングーテーブルの上で何か怖いことがあったのではないでしょうか。

 

お客さまたちから話を聞いていると、犬に対して昔ながらの厳しい扱いをするトリマーさんもいるようなので、アルフが過去に怖い経験をした可能性もあります。なので私は、ブラッシングするときに厳しくやり返さずに、穏やかなトーンで「そんなことしないの」と声をかけ、やさしくなだめてなでてやりました。するとアルフの顔つきは少しずつ変わり、落ち着くようになりました。噛むそぶりをした後、こちらの手をペロペロなめてくれるときもあります。

 

アルフが人を怖がって激しく吠えてしまう行動についても、大好きなボールの威力を借りて、どんどん良くなっていきました。犬は通常、女性より男性を怖がる傾向があるのですが、テレビ番組の撮影で見知らぬ男性が何人か来たときも、ボールを数回投げてやるとすぐに夢中に。しかも、犬に嫌われて吠えられることが多いという、体が大きな男性にも喜んでボールを持って行き、「投げて!」と会話をしようとしたのです。これには正直驚きました。アルフは怖くてつい吠えてしまうけれど、じつはその人に遊んでほしいのだと表現した……。そう思うと、愛おしく思えてなりませんでした。

 

そんな風に、人への社会化も順調に進んでいったアルフは、テレビ出演も立派にこなしました。大きなライトとカメラの前で、トイレトレーの上に座るという役目をしっかり果たしてくれたのです。テレビの撮影は、大きなカメラがかなり近くまで近づいてくるので怖がる犬は多いのですが、アルフは不安になると私を見つめ、私が「大丈夫」と声をかけてやると、しっかりとオスワリのポーズを保ち続けてくれました。

 

犬同士のあいさつでも、最初のころは相手のしっぽを追いかけて空噛みするなど、不思議なあいさつの仕方をしてしまっていたのですが、それもだんだん上手に。今では初めて会う犬にもほとんど吠えなくなり、落ち着いてあいさつできるようになりました。

 

アルフは、ある程度の年齢になってからの預かりでしたが、「時間をかければこんなにも成長するんだ」と、本当にうれしい気持ちでいっぱいです。

 

 

 

犬の噛みつきにはたくさんの意味がある

 

いろいろな場面で、犬たちが私に対して「いやだ!やめろ!」という意味で牙を当てることもありますが、その牙の圧力で「許せる」範囲やがわかってきました。本当に噛みつく気があるなら、だいたい一発で流血です。跡がつくくらいなら、ある意味「親切な警告」なので、驚くかもしれませんが、大げさにとらえてはさらに関係を悪化させてしまいます。

 

「ダメでしょ、そんなことしないの」、「ごめん、ごめん、怖かったね。でもちょっと我慢して、ね」という感じで犬の気持ちを受け止め、基本的には自分の行動は変えずにやるべきことはやり通すようにするとよいかもしれません。

 

しかしいったんやめてあげて、もう少しハードルが低いところから慣らしていく作業が必要なこともありますので、プロに相談するのがよいでしょう。おびえて牙を当ててきたときには、犬には感情をぶつけないようにして、場合によってはアイコンタクトを避けることも必要。犬を抱いたり、押さえたりして犬にふれているときは、力が入りすぎると犬に恐怖感を与えてしまい、よけいに暴れることになりますので注意してください。ふだん何気なく入れてしまっている力が、愛犬を怖がらせていることもあるのです。

 

多くの噛みつきのケースを扱ってきて感じるのは、犬が噛むという行為には、たくさんの意味があるということ。それを理解して、場面に即した受け止め方をすることこそ、犬の嗜みつきを抑制して、人との関係をより良くするためにとても重要なのだと感じています。

 

ただ嗜みつきの問題は、対象が飼い主さんだけである場合にはともかく、他人を嗜んでしまった場合には、大問題になることがあります。被害によっては、多額な賠償請求をされるケースも。そんな事態を防ぐためには、嗜みつきの問題改善に経験と自信があるドックトレーナーを探して、相談することをお勧めします。